学園プリズン
校内巡回の罠
「それで、この純粋丸出し子猫ちゃんは何?」
「それは今置いといたれや…」
「そーだ。一番傷ついてるのはこの俺だ」
「あっそ」
リョウが、こちらを振り向いてにいと気味の悪い笑みを浮かべる。
一体、何のつもりだというんだ。というか、この男には、反省するという態度がないのだろうか。知らない、ということも有り得るな。きちんとした教育を受けていれば、このような行為に及ぶはずはない。
「で?僕の商売の邪魔してまでの用事ってなに?時間掛かるならお金取るよ」
「なぜ、僕たちが貴様に賃金を支払う必要があるんだ」
「うるさいよ、メガネ君。で、用事は?」
リョウは、くるくると自分の髪を指に巻き付けながら、さも時間の無駄だとでも言わんばかりの態度をとる。
「この紙を見ろ」
「なにさ、これ」
「生徒会の目安箱だ」
「へぇー、そんなもん使ってる奴いたんだ」
「おいおい、ほとんどがお前の客だったぜ?リョウ」
レイジが笑いながら口を挟むものの、リョウは動じない。
というか、レイジは自分が目安箱にあれほど書き込みをされていたことを忘れたのだろうか。いや、憶えている上で言っているのかもしれない。
どこまで本気かわからない奴だ。記憶力も、どこまでが正しいのか解らない。
そういえば、ロンはどうしたんだ。
周辺をぐるりと見渡すと、ロンは壁にもたれ掛かって、リュウホウと何か話をしている。
リュウホウは、レイジやヨンイルよりはまともな発言をする印象を受けていたが、それでも信用に足るものではない。
リョウの始末をヨンイルとレイジに任せ、再びロンと向き合うことにした。
「ロン」
「ああ、鍵矢崎。なあ、さっき俺が言ったこと正しいんだよな。なんであいつらあんなに落ち込んでるんだよ。リュウホウに聞いてもろくな答えが返ってこないし」
下手な説明をされるよりはましだな。
「なにも間違ってなどいない。いいか、ロン。レイジやヨンイルが使っている表現方法は世間一般的に良い教育を受けていない者が使用する言葉だ。俗物的で、下品でそれでいて発祥が不確定だ」
「ふうん」
ロンは納得していないような顔をしていたが、それ以上追求してこなかった。間違ってもレイジに説明を求めることだけはしないでほしいものだ。
そういえば、リュウホウはこういった知識をある程度は持ち合わせているようだが、どうなのだろう。
リュウホウは、先ほどから遠巻きにこちらの様子を伺っている。自分がどこにいていいのか、何をすればいいのかわからないだろう。
「リュウホウ、お前どこで教えてもらったんだ?学校か?」
「え、ええと、ぼ、僕は、あの、じょ、上級生とか、」
「上級生、ねぇ」
ロンの視線が一瞬レイジとヨンイルの方に向いたが、すぐにリュウホウへと戻った。
上級生に教えてもらったらしいが、この性格のリュウホウが小学校で上級生と仲むつまじく下世話な話題をするなど考えられない。おそらく、無理矢理か、本人には不本意な形で教わったのだろう。もしくは、上級生という言葉自体が嘘か。
「で、結局なんなの?」
「だからな、お前がやってる男娼もどきの仕事を辞めろってことだ」
「嫌だよ。これが一番手っ取り早いんだ。寝てる間に財布を取られるなんて相手の責任だよ。そのぐらい大目に見てもらわなくちゃね、良い想いしたんだもん」
「んー、まぁ。悪いとは言ってねだろ。財布を取られる奴が間抜けなだけだしな」
一体レイジは何を言うつもりなのだろう。
レイジに全員の注目が集まる。
「お前、どうやってここに入ったんだっけ」
「みんなとそんなに変わらないよ。ママの新しい恋人に、ここに売られただけ。その過程は、知ってるはずだけど?白々しいよレイジ」
「まあな、お前の過去なんて、今更聞いてもな。何も変わっているはずがない」
「だから、何?」
誰も一言も話さない。瞬間的に訪れる沈黙は、何を意味するのか。
なぜ、入学の理由なんて聞いた?リョウを守る人間がいなかったとしたら、どうだというんだ。この学校に入るような人間に、ろくな親がいるわけがない。
「今度からはバレないように気をつけろよ」
「え?」
「俺たちはお前に辞めろと言った。けど、お前は辞めなかった。つまりはそれだけってこと。今までと何が変わるわけでなくとも、接触を持ったということが重要だってことだ」
「…うん」
リョウが、僅かに口角をを上げて笑みをつくる。
その笑顔は、いままでの作り笑顔ではなかった。
「ありがとね、レイジ」
「ああ、事後処理はきっちりしろよ。もう庇ってやらねえからな」
「気をつけるよ」
「いつ、辞める気だ?」
何だと?それは、何かの解決につながるのか?表沙汰にならなければいいとでも思っているのか?認めるわけにはいかない。どうして僕たちがリョウを庇う必要がある?
奴が生徒会メンバー……だからか?
「レイジ…貴様」
「リョウ、先生の中にも客はおるんか?」
「当たり前じゃん、そんなの。見つかって退学なんてダサイからね」
「ほぉー、どんだけの腕前か気になる所やな」
「相手してあげてもいいよ。お金は取るけどね。でも、思いっきり値引きしてあげるよ。見逃してくれたお礼に」
「冗談」
「…で、結局どうなったんだよ」
「あ、リョウさんは、お咎めなしで。ええと、一件落着?かなぁ。」
二人のほほえましい会話など、聞いている場合ではない。
「お前たち、いい加減に」
「直、もう止めておけ」
……サムライ、居たのか。
あまりに存在感が薄かったせいか、すっかりこの場にいることを忘れていた。
僕としたことが。
「しかし、」
「教師の中にも味方が居るのならば、俺たちの出る幕はない」
「……それはそうだが」
「おーっし。これで一個解決だな。よし、解散だ、解散」
「また明日からの遊び考えな」
「んー、脱衣麻雀はどうだ」
「却下や、二次元以外の裸に興味ないわ」
「キーストアも脱ぐかもよ?」
「…ええかも」
………レイジの一言で、この一件が解決という形に納まった。
全く、いつにもましてくだらない結末だ。脱衣麻雀なんて、絶対に認めないからな。
「解決したのか?」
「そうみたい」
「………生徒会って、こんな事ばっかしてんのか」
ロンの台詞に反論したかったが、実質このような事しかしていない事実に気がつき気が滅入る。認めたくはないが、日々このような活動しかしていない生徒会であることは否定できない。隣のサムライを見ると、僕同様ため息をついている。
だが、しょうがない。こんな生徒会を居心地がいいなどと感じている僕自身が存在するのだから。
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