学園プリズン

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  校内巡回の罠  

 いまだに顔を真っ赤に染めているリュウホウと、何も知らないで不思議そうにしているロンはひとまず置いておこう。今は、そんなことの説明に時間を費やしている場合ではない。それに、まだ中学1年生であるロンにそのような事実を教えるか否か、甚だ疑問が残る。家に帰ってから検討することにしよう。
 とりあえずは、僕が施行してきたロンに対する教育については間違っていなかったと仮定して、今現在の問題解決に移ることとしよう。
 これほどまでの生徒から苦情が出ているとなれば、統計学上そうとうの数の被害者が出ていることは容易に想像がつく。生徒会として手を打つしかないだろう。
 本来ならば、このような事件に生徒が首を突っ込むべきではないものと思われるだろうが、この学校ではそのルールは通用しない。
 生徒会には普通の生徒が羨むほどの権力が与えられるのだから、その分生徒達に労力を還元しなくてはならない。つまりは雑用を一挙に引き受けるということに他ならないが。安田は、僕にこの仕事をさせたくないらしく生徒会の権力の撤去を訴えているらしいが、所詮は教頭という身分だ。ずっと以前から受け継がれるこの風習を撤去するには至らないだろう。それに、僕自身この制度を受け入れているのだからとやかく言われる筋合いはない。

 リョウを捕まえる手だてを考えるとしよう。
 最も効率的な方法は、少人数で交代または多方向から巡回し、リョウの犯行を発見することだ。誰かがリョウの客になって、写真で証拠を押さえるという方法も考えられるが、そこまでしてやる義理もないだろう。それに、レイジ辺りは喜んでその役目を引き受けそうだという事実は、明らかに僕の許容範囲を超えている。第一、不潔だ。今は、ロンやリュウホウもいるのだから、あまりそういった不純な行為を生徒会で行っていると思われたくはない。
 加害者であるリョウが生徒会メンバーであることで、そのあたりは既に信頼に欠けるものだとも思えるが……、悪化を防ぐに越したことはない。
 放課後に、校内や寮の怪しい場所−つまりは保健室やリョウの自室−を一回りする程度でリョウの犯行現場は見つけることが出来るだろうか。最初はその程度で良いとするか。そこまで労力を使ってかたづけなければならない問題とも思えない。所詮は自己責任によるものだ。
 それに、どうせリョウのことだ。それほど場所にこだわるとも思えない。僕にはとても考えられない不衛生な場所で事に及ぶ可能性が高い。ならば、怪しい場所と限定せずに、校内を一周することから始めるか。


「では、リョウの犯行の現行を捕えるぞ。今日の放課後から校内の巡回を命じる。巡回のコースはとりあえずは校内の一周とする。それでも見つからない場合は、頃合いを見計らって僕が変更を指示する」
 その場にいる全員を見渡したが、特に反論はない。反論などする者がいたとしてもすぐに理論で打負かしていたが。
「いいか2人一組だ。今から僕がチーム分けをする」

「異議あーり」
「同じく」

 レイジとヨンイルが揃って手を挙げた。
 しかし、既に予測は出来ていたことだ。何を望むかも推測可能だが。
「俺直ちゃんとがええ」
「俺ロンとな!!」
 想像通りだ。まったく低俗な。特にレイジ、魂胆が丸わかりだ。
「……却下」
「なんでだよ」
 レイジがあからさまに不機嫌になる。
 サムライに、何とかしてもらうかと思いかけたが、全くどうにもならなそうな気配を察し、自分で何とかしようと決意する。ロンとリュウホウは不安げにこちらを見つめている。
「そのチーム分けをした結果、著しい成果が見られると思うか?」
「大丈夫やって」
「心配しすぎだって、キーストア」
 一体どこからくるんだ、その自信は。精神の構造が異常に形成されたとしか思えない。
「あーもう、面倒くせぇな。別に誰と一緒でもいいじゃねえか」
「あ、あの、ぼ、僕は一人でも別に」
 …ついには年下に気を遣わせるとは、本当に情けない奴らだ。
 サムライに目をやると自分で沸かしたらしいお湯で茶を入れている。なるほど、一人でお湯を沸かすことは出来たのだな。そのまま素手でやかんをつかんで手に火傷を負わなければいいが。
「お前達、年下にここまで言われて何とも思わないのか?」
 ぎろりと睨みつけるものの効果は感じられない。
「別にー。お言葉に甘えちまおーぜ」
「俺もー」
 …こいつらは。僕はこの二人を幼年期から再教育させることを切に望むな。
「いいか、レイジ。お前、ロンと二人きりで校内をおとなしく回れる自信があるのか?」
「あ?自信?」
「放課後の学校だぞ?しかもこの学校は部活が盛んでないから生徒はほとんどいない。そんな中で、ロンをその辺に連れ込まないで、真面目に校内を循環できるっていうのか?」
「………」
 レイジが沈黙する。
 まあ、当然の結果だ。そちらがレイジ本来の目的だったという考えも捨てきれない。
「直ちゃん俺は俺は?」
 ヨンイルが満面の笑みで聞いてくる。
 しかし、ヨンイルに言うセリフはすでに決めてあった。
「レイジとロンを組ませずに僕と貴様が組むとサムライかリュウホウがロンと組まざるを得ない。しかし、ロンとリュウホウではリョウを見つけても何も出来ずに終わる。よって、ロンはサムライと組むしかなくなる。すると、残るリュウホウはどうなる」
「……レイジやな」
 このぐらいの計算は出来るようだな。
「こんな性格のリュウホウがレイジと行動を共に出来ると思うか?」「………」
 ヨンイルが視線をリュウホウに向けると、それだけでリュウホウはびくりと肩を震わせ、2、3歩後ろに下がってロンの後ろに隠れた。ロンは、突然後ろにくっついてきたリュウホウに不思議そうに問いかけている。
 それを見て、ヨンイルは分かりやすくため息をついた。
「わかったわ。俺はロンロンと組んだる」
 ふん。僕の勝ちだな。最初からこうなるとはわかっていたが。
「僕の案を遂行する。サムライとリュウホウ。ロンとヨンイル。僕とレイジだ。反論はみとめない」
 レイジはまだ多少悔しそうな顔をしているが、負けを認めたらしい。初めからおとなしく言うことをきいていればいいものを。
「では、今日は手始めに、ロンとヨンイルから初めてもらう」
「 ……へーい」
「…ああ」
 ロンは、今までの話の内容についていけてないようで妙な顔をしている。詳しい説明は後々すればいい。ヨンイルは途中でサボりそうで不安だが、ロンがついていれば下手なことを出来ないだろう。ふん、完全な采配だな。
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