学園プリズン

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  学園内トラブル処理係  

 自己紹介ですらこんなに疲れるなんて、先が思いやられる…。そういや、他のメンバーはどうしたんだ。
「レイジ、この他にメンバーは?」
「ああ、不登校の天才ハッカーと、ちょーっと素行不良の小悪魔がいる」
「はあ?おい、ヨンイル、このふざけた奴どうにかしてくれ」
「いやー、あながち間違っとるとも言えんよーな」
 ……不登校の天才ハッカーと、素行不良の小悪魔?どんな生徒会だよ。ハッカーなんて、犯罪者じゃねえか!?
「あ、あの、あの、せ、生徒会って、どどど、どんな、仕事してらっしゃるんですか…?えと、あの、いえ、何でもない、ですっ」
「そうだな、ロンにも説明していなかった。このIQ180の天才が直々に説明してやろう」
 なんか、リュウホウの対処。慣れてきたなこいつら。いや、元からなんも遠慮してないだけか。つまりいつものまま。
「まず、この学校において生徒会はただの雑用ではない。文化祭、体育祭、入学式、卒業式の雑用を一手に引き受けることで、様々な特典が得られる。まあ、特典については追々説明する」
 特典……。でも、まあ学校からの特典ってぐらいだから、ノートと筆記用具とかか?図書カード…貰っても、漫画ぐらいしか買わねーし。文具券なんてよりいらねー。
「それから、これは代々生徒会でやってきたことだが、まあ説明するのも面倒だ。一度開けるか。サムライ、目安箱を持ってきてくれ」
「承知した」
「ひゅー。見事な忠犬っぷり」
「茶化すな」
「直ちゃーん、俺にも命令してー」
「黙れ」
 ……一気にまじめな雰囲気が壊れたぞ。目安箱を開けて、なんなんだよ。生徒の意見にいちいち目を向けるとか…予想外すぎる。こいつらに協調性と社交性は全く見られないってのに。リュウホウを見ると、あちこちに視線を走らせて小動物みたいにキョロキョロしている。
「…バカばっかりで悪いな」
 俺が声をかけると、びっくりしたように肩をすくませた。
「あ、そんな、そんなことないよっ。みんな仲良くて、あ、えと、た、楽しそうで。僕、こんな、すごい、生徒会には、入れる、なんて、すご」
 がらっと、戸が開いた。サムライは、大きな箱を二つ両腕に抱えている。これが目安箱か。
「今戻った」
「ああ、ありがとう」
 鍵矢崎がお礼を言う。あー、なんか、昔のこいつ思い出すな。こいつが素直にありがとう言えるようになったなんて。
 レイジが、サムライから一つの目安箱を受け取り、机にのせる。
「よっし、じゃあ開けるか」
「ほい」
 ヨンイルが投げてよこした鍵を使い、後ろ側の板を外す。
「まだ入学式したばっかなのに、何か入ってるのか?」
「ああ、年に4回しか開けないからな。だいたい開ける頃には過去の物を含め、結構な量になる」
「へえ」
 どれどれ、どんだけ入ってんだろ。
「お、んー、割と多め、かも?」
 レイジが、板を外した面を逆さにする。すると、一斉にどさどさと飛び出てくる紙切れ。多っ!!予想以上だって!!なんだコレ!
「これを片っ端から読んでいき、解決せざるを得ない件のみ取り上げる。個人的な意見は却下だ」
「個人的な意見って、たとえば?」
「読んでいけばわかる」
 全員が机の周りに集まり、紙切れをかき集める。そして片っ端から読んでいく。リュウホウが遠慮しているので、適当に集めた紙の束をリュウホウの両手に握り込ませておく。

 えーと、サムライが木刀を持ち歩いているのを何とかしてほしい。
 …これって、個人的意見、か?却下。

 次は、ヨンイルが図書館の漫画コーナーを占領しているのでなんとかしてほしい。………却下…?

 レイジに彼女を寝取られた…………却下!!!!

 えー、鍵矢崎の発言に非常に精神的苦痛を受けた……却下!

「なんだよコレ。お前らのことばっかりじゃねえか!!」
「いや、ロン。そんなことねえよ、ほら、これなんか不良がたまっていて怖いのでなんとかしてくださいだってよ」
「そーやロンロン。まだ4枚しか読んでへんのに決めつけるのは早いで」
 ………4分の4の確率でお前らのことなのに、何がだ!!
「あ、あの、これ、問題じゃ、な、ないで、しょうか…」
 こっそりと、リュウホウが手を挙げる。蚊が通り過ぎたときの音ぐらい小さな声。
「見せてみろ。なに、リョウに騙された金を返して欲しい。他にはなかったか?」
「えと、この辺、全部そうなんです、けど……」
 レイジやヨンイルもそれらしいものを見つけて読む。もちろん俺もだ。なんだ、騙すって。しかも金?
「えーと、あの男娼を捕まえてください?」
「こっちは、隣で寝てる間に財布盗まれたらしーで」
 だんしょう…って、何だ?何でヨンイルもレイジもそんな楽しそうに笑ってるんだよ。リュウホウは恥ずかしそうに下向いてるし。
「ロン、そっちは何て書いてある?」
「え?こっちは、あの娼婦に病気うつされた、取り締まってくれって」
 …娼婦って、しょうふ、でいいんだよな。鍵矢崎に習った漢字の中に、【彼女は娼婦として人生を送った】っていうのがあったような。
「なあ、鍵屋崎」
「なんだ?」
 鍵屋崎は、この件のことをあまり好ましく思っていない様で、眉間に皺を寄せている。
「娼婦ってなんだ?」
「娼婦というのは、売春を業とするじょ……まて、ロン。お前、娼婦が何だか知らないのか?」
 一斉に、信じられないという顔で全員が俺のほうに振り向いた。
 え?え?何?なんだよ、知らなくて悪かったな。鍵屋崎も、そんな大声出していいやがって。
 つうか、そこまで驚くことなのか。
「なんだよ…」
「マジか?ロン。本当にわかんねえの?」
「今時中学生になって、んなこと知らん男がおるとは……直ちゃんの教育の賜やなあ」
「俗物的な言葉だ。知らなくとも良い」
「……僕は間違ってはいない」
「キーストアっ!お前の教育を信じた俺がバカだったぜ!俺がロンにちゃんとそーいうことを教えてれば」
「な、許さないぞ!!レイジ!!お前にそんな重要なことを任せられるか!!性教育ならば、僕が専門書で十分に教えた」
「直ちゃん。年頃の男の子にはなあ、筋肉や骨の絵じゃあ我慢できんことがいろいろあんのや」
「子どもを前にして、なんと破廉恥な!」

 なんだ?俺、そんな悪いこと言ったか?そんな言い争うことかよ!!
「なあ、リュウホウ。おまえ、娼婦って知ってるか?」
「え?………う、うん」
 なんで、そんなに照れてるんだよこいつは。
「意味は?」
「え、えっと、えと、い、意味は…」
「なに?」
「えーと、お、女の人が、あ、あの、か、体を、」
「女の人が体を?」
「ぼ、僕にはそれ以上、あ、あの、えと、ご、ごめんっ」
「いや、そんな顔赤くしながら言われても…」
 もう意味は知らなくてもいいから、誰かこの状況をなんとかしてくれ。

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