学園プリズン

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  学園内トラブル処理係  

 あー、疲れた。
 呆れるほどつまらない入学式がようやく終わって、その後の新入生歓迎会・クラス親交会とやらも何とかこなした。
 どうやら俺は、生徒会に入れられるらしいのだが、そうなるだろうなとは思っていたからそんなに驚きはしなかったけど、一応文句はつけておいた。入学方法がアレだから、しょうがないといえばしょうがない。納得せざるを得ないってわけだ。
「ねえ、ロン君…じゃなくて、えと、ロ、ロンはどの部活にはいる?」
 時計を見て、そろそろ寮に帰ろうかと考えていた俺に、控え目を三乗したようなリュウホウが話しかけてきた。こいつは俺のこの学校で初めての友達だ。何といっても俺より背が低いし、俺と同じで天才でも金持ちでも、ついでに見てわかると思うが不良でもない。
「この学校でろくな部活なんてないだろ。天才と不良と金持ちしかいねーんだぞ」
「そ…んなこと、ないよ。一般入学の人たちもいるし……」
 一般入学か、どいつが天才でどいつが一般入学生でどいつが金持ちなのかはパッと見じゃあ分からない。けれど、一般入学生のこの学校内における権力の低さは目に見えて明らかだ。寮やら学校設備・部屋なんかを仕切ってるのは金持ち、部活と委員会を仕切ってるのは天才、生徒を仕切ってるのは不良といった具合に分かれていて、一般人に入り込むスキなんてない。
「で、何部に入りたいんだよ」 「えっと、うんと、あの、さ、さど、うぶ、とか。美術部とか…あったら……」
「あるかよ、そんな部活」
   リュウホウにとってありがたくないことに、うちの学校ほど部活動に力を入れてない学校はないってぐらいに部活動の種類が少ない。なにしろ、野球部・サッカー部という二大運動部が存在しないし、天才共が作った部活は多くても部員3人というレベル。部費を貰うためにわざわざ自分の為の部活を設立するから、マニアックすぎて意味がわからない。しかも、部員が一人からで部活動として認められるため部員集めなど存在しない。自分の為だけの部活で、むしろ他人の受け入れを拒否している。こんなもんに入っても意味なんてない。
「で、でも。僕、あんまり寮の人と仲良くなくて…。あ、あの、仲良くないっていうか、あの、」
「帰りたくないのか?」
 うん。と呟いて、リュウホウはうつ向いてしまった。別に落ち込ませるつもりはなかったが、リュウホウは部活に入っても友達が出来ると思えない。むしろ、良くてパシリってとこだろう。それがはたして寮のやつよりマトモなのかどうか…。
「お前と同じ寮のやつって天才か?それとも金持ち?」
「え、えっと。どうだろう…どっちもあるような、気がするんだけど…えと、たぶん、不良……の人かなぁ…。あ、でも、別に不良が悪いっていうわけじゃなくて、その、えと、あの……」
「もういい。面倒だ。とりあえず不良ってことだろ。そんで頭もそれなりにいい」
「あ、うん……」
 リュウホウは落ち込んで下を向いているが、そんなこといちいち気にしてられねえ。けど、同じ部屋が不良か…。普通の人間でもダメだっつうのに、不良じゃあな…。無理だろ、リュウホウには。
「で、殴られたり、金取られたりってことはないんだよな?」
 パッと見じゃあ分からないけど、腹とか殴られてりゃあ見えないし。
「ないよっ。そ、そんなこと、しない人だよ…。でも、あの、何て言うか、怖い…のかな。いつも、その、無表情で、僕には、なにも…」
「何もしないのか?話も?」
 でも、この際まだマシなのか?無視されるぐらいだったら、別に。……こいつといると、なんか感覚狂ってくるな。
「話……したことない、よ。で、でも、あの、お、お、お、女の人とか、その、いろいろ、ええと、その」
「女?連れ込んだりするのか?でも、生徒にはいないし。…女?」
 女…、そんなしょっちゅう連れ込んだりできるもんなのか?レイジじゃあるまいし。女か。でも、リュウホウもいるってのに、連れ込んでどうする気なんだ。
「リュウホウ?何でそんな真っ赤になってんだよ?」
「だ、だだだって、その、あ。ええと、何でもない、何でも。ないよ!」
「で、そいつと長い時間一緒に居たくないから、部活に入りたいわけなんだろ?」
 こくこくこく、と何度も頭を振って頷くリュウホウを見ると、何とかしてやりたいと思う。この控えめ且つ弱気で陰気なリュウホウが嫌だと意思表示するぐらいだから、よっぽどなはずだ。
 でも、部活か。生徒会に入ってるうえ、さらに部活まで入るなんてごめんだ。…新しい部活を作るってのも、面倒だし。
 横目でこっそりリュウホウを見ると、目をキラキラさせて期待を込めて俺の方をじっと見つめていた。……やりづれえ、しかも、今更断るって雰囲気でもない。どうしたら…………
 お、そうだ、いいこと思いついた。
「お前も一緒に生徒会に入ればいいんじゃねえの?」
 せっかく良い案を思いついたと思ったのに、リュウホウは真っ青な顔をして、今度は横に何度も頭を振った。そこまで拒否しなくてもいいだろ。
「そんなっ、僕なんて駄目だよ。何の役にも立たないし、生徒会だなんて」
「んなことねーよ。レイジが会長できるくらいなんだし」
 俺がレイジのことを持ち出すと、リュウホウは少し頬を赤くした。落ち込んだり焦ったり赤くなったり青くなったり、忙しいやつだ。
「レレ、レイジさんは凄い人だと思うよ。か、格好いいし、挨拶も凄かったし」
 む。…何だこれ。凄くねーだろレイジなんて、まあ百歩譲って”格好いい”っていうのは認めないわけにはいかないけどな、顔だけは。他はホント、他人に冷たいし、喧嘩は強いけど容赦ないし、変態だし、アホだし、音痴だし、えーと、とにかく最低ってことだよ。
 で、結局入ってもいいってことなのか?これは。遠慮してるってことなのか?全く、分かりづらい。
 遠慮ってことは、実は入りたいってこと。だよな?じゃあ、つれてけいいよな。もう考えんのも面倒くせぇ。
「まあ。とりあえず連れていってやるよ。入るか入らないかはお前が決めればいい」
「え!?本当?僕なんかが行っても本当にいいの…?」
「ああ」
 やっぱ入りたかったんじゃねえか。隣で嬉しそうにニコニコしてるリュウホウを見ながら、ふとある考えが頭をよぎる。
 そういえば、俺が家に呼んだ友達がレイジに会うと、何故かそれ以降態度がぎこちなくなるんだよな…。鍵屋崎もあんまりいい顔しないし。会った次の日に引っ越したやつもいたけど、まあ大丈夫だよな。
「ねえ、ロン…って、あの鍵屋崎さんとも知り合いなんだよね。うわぁ、どうしよう、僕なんかと話してくれるかなぁ」
 目をキラキラさせてあいつらと会うのを楽しみにしてるリュウホウに、今更ダメだと言えないし。何とかなるだろ。




「ロン、そいつ誰?」
 生徒会室に入った瞬間の一言がこれ。いきなりなんだよ、俺が友達連れてきたらなんだってんだ。妙な顔して睨むんじゃねえよ、リュウホウがビビっちまうだろ。
「俺の友達だよ、名前はリュウホウ」
 リュウホウを紹介すると、レイジだけならまだしも鍵屋崎とヨンイルまで近づいてきてじろじろとリュウホウをいろんな角度から眺めた。リュウホウは今の状況について行けないらしく、びくびく震えながら顔を赤くして視線だけで俺に助けを求めた。
「あ、あの、僕、リュ、リュウホウといいます。あ、ええと、よ、よ、よ、よろしくお願いしますっ」
「ふうん」
 レイジのいつもの笑顔が出ない。なんだこれ。この状況は。ヨンイルがにやにやと見守ってる感じがやたらとむかつく。つか、今日ぐらい全員揃ってろよ生徒会のくせに。なんでいつも同じメンバーしかいないんだよ。サムライは一言も喋んねえから、居るのか居ないのかわかんねえし。
「リュウホウ、君の入学方法はどのようなものだ。そこに至るまでの経緯も詳しく話せ」
 鍵屋崎はいつも通りの無表情でリュウホウにまるで面接のように質問する。天才でも悪ガキでも金持ちでも無さそうなこいつに興味を持ったのだろうか。俺は普通に一般入学か、イジメに耐えかねて優秀な(外見だけ)学校に入れられた金持ちの息子かと思ったけど。
「あ、あの。僕は、両親がいなくて、おじいさんのところで育てて貰って、そのおじいさんが死んじゃって、親戚のおじさんの家に行くことになったんですけど、そこで、あの、この学校に入れられました」
 そんな過去があったのか。つまりは、おじさんの家で邪魔者扱いされて、金でこの学校に厄介払いされたってことだよな。期待を裏切らない不幸っぷりだ。しかしこいつ、なんか不幸が似合うよな、って。んなこと言ったらさすがに失礼か。
「お前、両親いないのか、悪かったな。鍵屋崎が無神経なこと聞いて」
「あ、ううん。えと、お母さんとお父さん死んじゃったの、僕がまだちっちゃい頃だったから、覚えてないんだ」
「ふうん」
 ずっとじいさんと一緒ってどんな生活なんだ。俺の母さんもほとんど子供の面倒なんて見ない人だけど、俺には鍵屋崎がいたし、母さんも、たまに機嫌が良いときなんかに、頭をなでたりしてくれた。誕生日プレゼントはくれなかったけど、思い出したようにどっかから買ってきたおもちゃを与えてくれた。今思うと、あれは客に貰ったいらないものだったのかもしれないし、俺がいることを知ってる愛人に貢がれた物かもしれない。同じような物を何回も貰うとさすがに嫌気がさしたけど、何故かそんな時は必ず鍵屋崎が俺についていてくれた。お隣さんのよしみってやつにこれほど感謝した時はなかった、と思い出す。
「んー、合格。お前をロンの友達一号に任命する。ありがたく思えよ」
 レイジがやっと浮かべた笑顔でめちゃくちゃなことを言う。なんで、友達までお前に決めてもらわなきゃなんいけないんだよ。リュウホウも戸惑ってるじゃねえか。ヨンイルはヨンイルで、リュウホウの頭をポンポン叩いたり、どの漫画のキャラに似ているか考えるという無駄なことに真剣になっている。
 どうにかこいつらを止めてほしくて鍵屋崎を見ると、まだ何か納得していないような顔で、レイジを一瞥して口を開いた。
「入試の結果はどうだった」
 またプライバシーの欠片もないような質問。止めるどころじゃなかった。むしろ一番失礼じゃないのか?リュウホウも答えなきゃいいものを馬鹿正直に答えている。まあ、こいつに断るっていうスキルが身についていないことは、短い付き合いの俺でも把握している。
「あ、僕あまり頭はよくなくて…、特に数学は苦手で、あの、ビリから数えた方が早くて」
「他は」
「他は、あの、ふ、普通ぐらいです」
「なるほどな。まあ、ギリギリで合格点をやらないこともない」
「は…?」
「あ、ありがとうございますっ!!」
 よくわからないが、リュウホウはレイジと鍵屋崎に合格点を貰った。ヨンイルは相変わらず笑ってるし、サムライは起きてるのか寝てるのか分からないぐらいに動かない。誰か俺にもわかるように説明してくれ。
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