今日は何の日?
今日は何の日か知っている?
それは、とてもとてもステキな日。あなたが命を授かった一年で最も嬉しい日。
6月15日、今日は末っ子の誕生日。もちろんそのことは家族の誰もが知っていました。しかし、みんなロンをびっくりさせてやろうとそのことは忘れたふりをしていました。
毎年、自分の誕生日には家族中が祝福してくれるというのに、今年はどうしたのだろう、とロンは不思議に思いました。そして、もしかしてみんな自分の誕生日を忘れているのではないかと不安になりた。
「なんで、誰もおめでとうって言わないんだよ…」
去年は、12時ちょうどにレイジがおめでとうを言ってくれましたが、今年はそれすらもありません。
「本当に、あいつら全員忘れてるんじゃないだろうな」
ロンは、とても不安になりました。
せっかくの誕生日に、プレゼントもケーキもおめでとうの言葉もなしかよ?誰も、俺の誕生日を祝いたくないっていうのかよ。
ロンは、一年で一番嬉しいはずの日に一年で一番落ち込んでいました。
「なあ、ちょっと可哀想すぎねえ?ロン、めっちゃへこんでるぞ」
「うるっさい、自分が計画したんやろ!」
「だから、止めた方がいいと言ったんだ」
「な、全部俺のせいかよ!!」
今回の誕生日はロンをとびきり喜ばせてやろうと、レイジが考えたサプライズでしたが、誰もがそろそろ後悔し始めていました。喜ばせるはずが、こんなにもロンが落ち込むことを予想してはいなかったのです。
「とにかく、サムライがケーキを買って帰ってくるまでは計画は続行だ。いいか、一度決めたことだ。心を鬼にしてかかれ」
「おうよ!」
「…んー、まあ、しょうがねえ」
その頃、すっかり落ち込んでいたロンはなんとか気分を紛らわそうと散歩に出かけていました。
「あいつらなんか、人の誕生日も憶えてねえなんて、もう、知らねえ」
とぼとぼと歩いていると、ふと目の前に陰が現れました。頭を上げると、そこにはその辺の不良達のリーダーである道了が立っていました。
ロンは、それはもう驚きました。それもそのはずです。ロンと道了の仲の悪さは、学校どころか地域全体に広まるほど有名だったのですから。
「…なんだよ、今はお前と遊んでやる気分じゃねえ」
「…………」
道了は、何も話しませんでした。そして、二人で数メートル歩いたあとに、道了がロンの頭にぽんと、手を載せました。
「った、な、何だよ、指輪があたってんだよ!痛えな!!」
「お前、今日が誕生日なのか」
「だ、だから何だよ」
「それだけだ」
「はあ?」
それだけ言って、道了はロンとは反対方向に歩いていってしまいました。
「……なんだったんだ?つうか、あいつ、俺の頭に指輪忘れていったよな…?」
ロンは、自分の頭の上に乗った指輪を手に取りました。なんだか、妙に自分にぴったりのような気がします。
「…?意味わかんねぇやつ」
それでも、少しだけ気分が上昇した気がして、家に帰ることにしました。
「別に、忘れたっていうなら俺が教えてやればいいんじゃん」
そう決意して、さっき道了が忘れていった指輪を握りしめました。
「こちら河川敷待機中ヨンイル。ロンロンが家に向かっとるで!用意はどうや?」
「こちらレイジ。飾り付けはばっちりだ。ケーキもさっき帰ってきた。もう来ていいぞ」
「おう、解ったわ。あとな、レイジ、怒らんで聞きや。さっき、道了がロンロンに何か渡してったで」
「…んだと!!あのやろう、俺のロンに!!後で憶えてろよ!!」
家を出て行ったロンを心配して見守っていたヨンイルも、家で誕生日会の飾り付けをしていたレイジと直ママも一安心です。ようやくロンにおめでとうを言えるのですから。
家に帰ったロンは、それはもう壮大に誕生日を祝われたことでしょう。
それがどんなに嬉しかったかは、想像に容易いことです。
おめでとう、あなたがこの世に生を得た日。
生まれてくれてありがとう。みんながあなたを愛しているよ。
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