学園プリズン

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  プロローグ sideロン  

 俺が4月から通う羽目になった中高一貫の私立学校。隣にはエスカレーター式で行ける大学。しかも男子高なうえに全寮制。これだけ最悪な条件が揃っている学校なんて中々ないだろう。
 その中で、唯一の救いといえば男子高だからって世間が思うほどホモばっかいるわけじゃないって所だ。
 女が全然いないって言っても先生の中には何人かいるし、地元に彼女もちって奴も少しはいる。
 まあ、たまに妙な噂を耳にして、どっからかあえぎ声が聞こえることもあるけど。そんなもんはごくごく一部の話だ。だから普通に生活してるかぎり別に支障はねえ…って、なに自分のこと励ましてんだよ。唯一の救いがそんなことって俺、可哀想すぎじゃねえか?
 あー虚しくなってきた。やっぱり地元の公立中学でよかったんじゃねえのか。あいつらみんなして猛反対しやがって。
 自慢じゃないが俺はそんなに勉強が出来る方じゃない。その俺がこんな私立の有名校に入学できるっていうんだから、当然裏がある。
 この学校で有名なのは二つだけ。高偏差値と裏口入学。莫大な金を積めばそいつがどんなアホでも、実は女でも、人間じゃないとしても誰でも入学することが可能だ。その反面、頭さえ良ければどんな貧乏な人間でも喜んで招き入れる。むしろ金ばら蒔いてゴキブリホイホイみたく天才を集めまくる。しかもテストさえ受ければ授業放棄OKという甘い蜜付き。
 だから、生徒の成績は普通の社会には適応できない変わった天才と金で厄介払いされた救いようのないアホで下品な金持ちで二分されている。普通入学の奴らにとっては居づらいったらないだろう。
 ついでに、金持ちじゃないうえ少年院送りになった不良+天才みたいな奴なんかも奨学金で入学させられたりしているってことは一応秘密らしい。素直に少年院に入れておけよと思うかもしれないが、不良で天才な奴っていうもんはどんな所でも問題を起こさずにはいられないらしい。そこで妙な問題をおこしちまった頭が良いアホが最後の手段として入れられるのだからどうしようもない。まあ、学校側は偏差値さえ上がればってことで喜んで受け入れているらしいけどな。
 全く妙な話だよな。世間の汚い部分ばっか詰め込んだ結果がこの学校てことだ。裏口入学の方は、カモフラージュが完璧で一般にはばれていないようだけど。まあ、この学校に入れさえすればすぐに分かるから、有名ってことになるのか?カモフラージュだけは力を入れてるって、より最悪さが増すよな。こんな学校に遊びたい盛りの小学生期を必死で堪えて受験勉強してくる奴らが惨めに思えて泣けてくる。やっとの思いで合格して、希望と憧れを胸に入学したとたん裏切られる気分なんて想像するだけでも最悪だ。
 そんな中で俺は、天才でも金持ちでも数少ない普通入学生でもない完全なるイレギュラー。超少数派のまともな一般人に入る。世間一般には全く納得されない入学方法だ。
「ロン、どうした?眉間に皺寄ってるぞ」
「別に」
 あたりまえのように俺の腹にレイジが腕を絡めてくる。いつものことだからこれぐらいで動揺はしないが、一応絡めてきた腕をつねって外しながらふと考える。
 いつも疑問に思うけど何でこんな奴が生徒会長なんてもんやってるんだ?もう結構な付き合いになるから、こいつが人の上に立てるような人間じゃないってことだけは分かるぞ。んなやつ生徒会長に選ぶなよ!!てか、立候補してんじゃねえ!!
 懲りずにスキンシップを図ってくるレイジにそっぽを向いて、あっちへ行けとジェスチャーで伝える。
「つれねーよロン。あんまり俺のことほっとくと浮気するぞ」
「勝手にしろよ。何が浮気だ、いつ付き合ったんだよ俺とお前は」
「ヒデー」
 そう呟いてレイジが頭をうなだれる。落ち込んでる豹。
 ちょっとだけ可愛い、笑えてくる。でも、この姿に惑わされたら駄目だ。これがレイジの得意技だってことは長年の経験で嫌ってほどしっている。もう騙されたりしねぇぞ。
「いつまで落ち込んだフリしてんだ」
「バレた?」
 にいっと、悪びえなく笑うレイジ。…ムカツク笑顔。
 いつまでもそんなもんに騙されてると思うなよ。
「今日、生徒会はないのか。最近いつも遅くまでかかってたよな」
「んー。まあな、仕事早い優秀な天才がついてるから」
「まさか鍵矢崎に仕事押し付けて帰ってきたわけじゃねえよな」
 生徒会メンバーで優秀な天才なんて、完全にあいつだろ。
 レイジの肩を掴んで顔を覗きこむと、レイジは普段通りの笑顔で俺の目を覗き返した。
「違うって。キーストアが『邪魔だ。仕事を手伝う気がないのなら帰れ』ってゆーからさ」
 バカか。マジで、こいつ、ありえねえ。それで素直に寮に帰ってきたっていうのか?
「真面目に働けって嫌味言われてんだよ。気付けよ。さっさと戻って手伝ってこいよ」
「えーだって」
「だってじゃねえよ。あんまり鍵屋崎に迷惑かけんなよな!!」
 子供みたいなこと言いやがって。こんなやつの下で働かなきゃいけないなんて、本気で生徒会連中に同情する。
 レイジが俺の髪の毛をぐしゃっとかきまぜた。そしてそのまま毛先をくるくると指に絡ませる。行く気はゼロか王様。
「レイジさっさと」
 俺が無理矢理手を払うと、レイジは唐突に喋りだした。
「明日入学式か」
 レイジが真剣な顔で言うもんだから。柄にもなく、ちょっと緊張する。突然何なんだ。
「なんだよ急に。3月から寮に居んだぞ。今更だろ。4月からでいいのにお前のワガママに合わせてやってんだ」
「いや、そうだけどさ、実感つーか、確証が欲しいっていうかさ」
「は?」
 確証?今までだってずっと一緒にいたじゃねえか。なんだっていうんだよ。意味わかんねえ。ただ一緒に暮らすってだけで何が変わるっていうんだよ。
「やっとお前と一緒に居られるなって。もう休み毎に会いにいかなくてもずっと一緒だ」
「…バーカ。当たり前だろ」
 なんか、テレる。顔が赤くなってくのが分かる。恥ずかしいこと言いやがって。
レイジの視線を感じて、思わず目を反らす。何やってんだ俺。
「会いたくなったらすぐ会えるって、お前が思ってるより結構レアなものだってこと」
「そーかよ」
「んじゃ、鍵矢崎の邪魔しに行ってくるか。留守番頼むな、ロン」
 ちゅっ。頬に柔かい感触が残る。
「てめ、」
 レイジはくすくす笑いながらドアを閉めていった。
 最悪だ。俺は男だぞ?マジで、勘弁してくれよ。ドキドキなんてするんじゃねぇよ、心臓。
「ったく、俺にどーしろってんだ」
 ただ、レイジがここにいるだけ。それだけで、この最低な学校に入って良かったと思える。
 小学校の友達なんて一人もいないし、それどころか、ろくでもない奴達ばっか。俺の入学方法のせいでいつもハブにされるし、身長は全く伸びねえし、年中寮生活だし、最低の三乗か四乗ぐらいは軽く超してる。  でも、金で追い払われた能無し集団にけなされても、変人の天才集団がムカついても、そのぐらいどうってことないように思える。
 やっぱ俺、重症かもしんねえ。意味わかんねえよ。何だコレ、何なんだよこの幸せな感じは…。


   バカレイジ。さっさと帰ってこいよな。
   俺だって、お前と一緒にいたいよ。

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