学園プリズン

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  恐怖の身体測定  


 前日の身体測定準備は夜の9時までに及び、今まで毎晩10時就寝だったロンにはやはり厳しいものだった。ロンを遅くまで学校に居させることに強く反対したものの、レイジがそういう経験も必要だと煩く言うものだから、ついだらだらと時間を延長し、結果的に最後まで学校に残ることになってしまった。
 よって、今日のロンはとても眠そうだ。睡眠時間が足りていないのだろう。先ほどから何度も欠伸を繰り返している。
「ロン、君は保健室で眠ってきた方がいい」
「な、そんなん必要ねえよ!」
「………」
「何だよ、その目は。べ、別に全然無理なんてしてねえって」
 明らかな嘘を僕に対してつくのは止めるべきだな。表情、視線の不安定さ、通常とは異なった行動等によって、すぐにばれるのということをそろそろ学んでも良い頃だと思うが。
 生徒会員は生徒の測定係を務めるため、自分達の測定を先に測らなくてはいけない。そのため、他の生徒よりも早くに登校している。ここの生徒会だけでは人数が不足することから保険委員の手伝いはあるものの最後の片付けなどは生徒会のみで行う。よって、保険委員は早朝に集まる必要はないということになる。
「鍵矢崎、これ俺のなんか大きくないか?」
「すぐ成長するのだから、そのぐらいで丁度いいはずだ」
 今日は丸一日身体測定であるから、生徒の全員が上下体育着を着用する必要がある。もちろん生徒会員であろうとも例外はなく、ロンもぶかぶかのサイズが合わない体育着を着用している。
 なぜか、その点で「よくやった」などとレイジに褒めらたのだが、未だに何のことか分からないままだ。レイジが褒めるという時点で大したことではないということが明白だという理由で調べるには至っていない。
 詳しく説明すると、中等部と高等部では体育着の色が異なる。中等部は青が基調とされており汗を吸い取りやすい生地が使われている、高等部は紺でナイロン地となっている。ちなみに、学年ごとに名前の刺繍の色が変化していて、よく見れば、その者が何学年なのかがわかるようになっている。
 しかし、この学校では生徒会や委員会、また他のあらゆる行事が中等部と高等部の合同で行われるうえ、部活動がほとんど存在しないため、あまり先輩後輩という上下関係は存在しない。完全なる実力主義だ。その恩恵を受け、生徒会は成立しているともいえる。

「ほら、鍵屋崎。次、お前の番だぞ、何ぼーっとしてんだよ」
「直ちゃん。俺が身長計ったるわ、ここ背な」
「ああ」
 室内履きを脱ぎ、身長計に乗る。裸足のため、若干足が冷たいが、その程度は想定の範囲内だ。
「んー、167センチやな。去年より5センチアップや!」
「そうか」
 5センチ上昇しているのならば順調な成長だと言えるだろう。なぜ去年の僕の身長をヨンイルが記憶しているかはさておき、ロンの身体の成長には目を配る必要がある。
 ロンはもう中学生だ。成長期に突入するのだから、今後どんどんと身長が伸びていくだろう。そのためには、睡眠・食事・運動を適度に摂取する必要がある。
 先ほど僕のもとを離れてレイジと共に身長を測っているロンに目をやる。相変わらず中が良さそうだが、レイジには節度を守った関係を保つようにと強く言い聞かせている。
「ロン、身長はどの程度伸びていたんだ?」
「……なな…」
 俯いて小声で呟くロンをよそに、レイジはただの阿呆にしか見えないような笑い方でうずくまって床を叩いている。一体何があった?
「何を笑っているんだ、レイジ」
「だ、だってよ。ロンのやつ、俺は成長期だとか何とか言っといてさあ」
「うるっせえな!お前は黙ってろレイジ!」
 ……なんとなく事情は把握できたが、正しく知るに越したことはない。
「ロン、恥ずかしがらずに言ってみろ。身長は何センチだったんだ?」
「………157…センチ」
 それだけ言ってロンは俯いてしまった。相当落ち込んでいるのだろう。無理もない。今日の測定にはかなり期待している様だったからな。…ここは何か励ましの言葉をかけるべきだろうか。
「そうか、なんと言うことはない。去年よりも1センチ伸びているだろう?全く伸びていないというのなら慰めの言葉も出ないところだが…」
 この言い回しはまずかっただろうか。僕としたことが、慰めなどと、つい本音を交えてしまった。ロンにもそれは伝わったらしく、ロンのうつむき加減は更に角度を増し、レイジの笑い方は少し同情的になった。
「直ちゃん、そろそろ時間やで。早くせな、生徒が集まってきてまうでー」
「わかっている」
 この状態のロンを放っておくのは少し不安だが、仕方ない。そのうちレイジにでも当たって気を晴らすだろう。今は、早急な作業が必要だ。他の奴らはどうした?
 無意識にサムライを捜すと、ヨンイルの左側でリュウホウと合同で身長測定に取り組んでいた。しかし、リュウホウの身長でサムライを計るには少々無理があるようで、背伸びをして必死になっている。
 リュウホウとロンの所にはイスか何か踏み台になるものを持って行こう。いや、それよりも身長測定係から外した方が簡単か。身長以外の測定ならば小さくても何とでもなる。
 それよりも、リュウホウとサムライの二人が一緒になってもヨンイル一人より静かだというのはどういうことだろう。ヨンイルが煩すぎるのだろうか。
「あの、あ、すいません。僕なんかの相手をしていただいて…」
「気にすることはない。お前の方が大変そうだが…」
「いえ、そんな。大丈夫ですっ。でも、その、気にかけていただいてあ、あ、りがとうございます」
「では、今度はそちらを計ろう」
「よ、よろしくおねがいします」
 ……なんとも言えない。ある意味似合いの二人とでも言おうか。
 日本人らしい会話を続ける彼らを見つめても、不思議とリュウホウへの嫉妬心は起こらない。リュウホウに僕のサムライを取るなどといった行為が出来るわけがないと確信していることが、安心している原因だろう。


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