「いいか、ロンおさらいだ。もう一回言ってみろ」 「おう。えっと…と、とりっくおあとりーと」 時間は夕方6時半。 秋も深まった10月31日ともなれば、既に辺りは真っ暗に日が落ちてしまっている。しかし、今日という1日は、子供だけで出歩くのに最も安全な一日だった。 事実、近所のこども達はこぞってかわいらしい仮装を施し、家々を廻りお菓子を集めている。ここにいる3人の兄弟も例外ではなかった。 年の近い上の2人と、小さい弟。その少し年の離れた弟の拙い英語に、兄達は顔をほころばせて褒めた。 「上手いやないか、ロンロン」 次男は、そう言いながら弟の髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。少し照れたように弟は「やめろよ、髪がぐしゃぐしゃになるだろっ…!」と、悪態をつくものの、彼が最大限に嬉しがっていることは傍目に見ても明らかだった。 「で、レイジ、最初はどこから行くんや?」 「んー、そうだな」 二人の兄たちは弟の手をしっかりとにぎり、今夜の計画を立て始めた。 そう、今夜は日本でもすっかりお馴染みとなったケルト人の収穫感謝祭ハロウィン。 ハロウィンはカトリックの行事としてが一般的だったが、今ではアメリカのお祭りと化している。 元々は、ケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていたことから、これらから身を守る為に仮面を被り、魔除けの焚き火を焚くというものだった。 ここら一帯の地域では、多国籍化が激しく人種というものが重要視されない。そうなると、宗教や行事もあやふやになり、とくに祭りなどは大人の伝統というよりも子供達の遊びのために行われていた。ハロウィンもその一環だった。 子供のためとはいえ、子供達の様々な仮装を目にしたり、お菓子を作ったり、家をハロウィン用に飾り立てること等は、地域住民の楽しみでもあった。 三兄弟の一番年上の兄は、ビジュアル系バンド顔負けの真っ黒なゴシック調の衣装を着こなし、尖った牙を生やしている。 化粧などしなくとも通りすがる者全てが振り返ってしまう美貌を怪しげにニヤリと歪ませて、これからどの家から廻ってやろうかと指折り数えて思考を凝らしていた。 妙な笑みを浮かべて悩んでいる姿すらも絵になってしまう彼に、道行くオバケや可愛い妖怪達も目を奪われている。 ちなみに、次男といえばカツラまで被って完全に漫画をコピーしていた。ハロウィンだというのに、洋風の化け物ではなく日本のキャラクターらしく、足下は下駄、服はちゃんちゃんこといった有様だ。頭の上には何やら目玉のぬいぐるみまで乗せている。 「決めたぞ。ロン、ヨンイル。まずは○○の家に行こう、そこからぐるっと町中を回ってくるぞ」 「おうっ!!」 三人の中で一番張り切っていたのは、誰の目から見てもハロウィン初参加である三男だった。狼男を意識した猫耳付きのカチューシャと、もこもこと暖かそうなオオカミの着ぐるみは愛らしい。一生懸命に握られたランタンを見れば、誰もがお菓子を与えたくなるだろう。 サーシャ家に行く 道了の所に行く 直ちゃんとサムライの待つ家に帰る |
||