大好きなパパへ

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「おい、聞いているか?もうすぐ父の日だろう」

 直ママは、不機嫌そうな顔をしてこども達に聞きました。

 このこども達といったら、毎年母の日には料理を手伝ったり、買い物をしてたりと半ば嫌がらせのようなお手伝いをしてくれるのですが、
 父の日に何かが行われたことはありませんでした。

「今年こそは、サムライになにか…」

「えー、サムライに?」
「何すんだよ、サムライに」
「そやそや、あんなやつに俺等が感謝する筋合いないで」

 こども達は非難囂々です。

「何かあるだろう。サムライはだな、いつも、こう、お前たちの為に働いて家に金を入れているだろう!」

「うーん、わかった。サムライに何かやってやるよ」
「えー。めんどくせえ」
「その辺の花でも摘んできたらええんちゃう?」

 直ママの言うことを素直に聞き入れたのは末っ子だけでした。

 予想していたことをこうも実行されると、直ママは怒る気にもなりませんでした。

「……サムライに何か送らなかったら、夕飯抜きだ。いいか、1人1つづつ。必ず物品でだ」

「「「ええー!!」」」

 直ママは、強硬手段を使い颯爽と買い物に出かけていってしまいました。

 残されたこども達は、必死に父の日のプレゼントを考えなければなりません。



「んー、どうすっかな」
 そうはいいながら、レイジはソファーに寝ころんでごろごろしたままです。
 その脇で、ロンがなにやら作業をしているようです。
「ロン、何作ってるんだ?」
「サムライの絵、描いてる」
「マジで?ロン、ロン。俺の絵も描いてよ。サムライより良いモデルだろ?」
「今忙しいから、ちょっと黙ってろよ」
 ロンは絵を描くのに夢中でレイジを相手してくれません。
「あーあ、おい、ヨンイル?何作ってんだ?」
「花火や」
「「花火ぃ?」」
 ロンは絵をほっぽって、レイジはソファーから飛び起きて驚きました。
「どうすんだよそんなもん。危ないだろ!」
「お前、どこで習ってきたんだよそんなもん」
「どこでもええやろ。これを一発どかんと打ち上げたるんや」
 二人はぞーっとしました。
 中学生が作った花火なんて、危険物以外のなにものでもありません。
「ヨンイル、止めた方がいいんじゃね?」
「そーだ。母さんに怒られるぞ」
「いいんや。夕飯抜きぐらいで俺の決意は変わらへんで」
「「………」」
 レイジとロンはじいっと、お互いの目を見つめ合いました。
「ま、いっか。面白いことになりそうだしな」
「本当に大丈夫なのか?家、爆発したりしないよな?」
 ロンは不安げです。
「大丈夫大丈夫。そのうち母さんが帰ってきて叱ってくれるさ」
「んー、じゃあ。わかった」

    一時間後

「今帰ったぞ。ちゃんとサムライへのプレゼントは作ったんだろうな」
 ママはじろりとこども達を睨みました。
「ちゃんとやったに決まってるだろ!」
 直ママは、ロンの書いたかろうじてサムライとわかる絵を眺めました。
「なるほど、ロンはサムライの絵を描いたのか。合格だ」
 ママにほめられたロンはにこにこ顔です。
「それで、レイジは何にしたんだ?」
「ああ、これだよ」
 レイジが取り出したものは四角い封筒です。
「中には何を入れたんだ?」
「秘密秘密。解ったらつまんねえだろ?」
 にやりと笑うレイジを怪しく思いながらも、直ママはヨンイルの方に向き直りました。
「それで、ヨンイルは」
「これや!」
 手には、大きな黒い固まりが1つ。汚い字で「手塚2号」と書かれています。
「なんだそれは?」
「花火に決まっとるやろ!!」
「花火……だと?貴様、一体どこでそんな技術を……安全性は保証できるんだろうな」
「当然や!!なんなら今打ち上げたってもええで!」
 自信満々のヨンイルでしたが、実はこんな大玉の花火を作ったのは初めてでした。
 直ママは、その様子を見て、軽くため息をつきました。
「まあ、いいだろう。サムライが帰ってきたら河原にでも行こう」
「えっ?本当に打ち上げんのかよ、そんな訳わかんねーもの」
「しかたない。これでもヨンイルにしては頑張った方だろう」
 なんだか違うような気もしますが、直ママは納得してしまったようです。



そしてそして、夜。

 ついにサムライが帰ってきてしまいました。
「今帰った」
「サムライだ」
 ロンは一気にそわそわし始めました。
「大丈夫だって。もし、爆発してもお前が黒こげにならないように守ってやるよ」
「そんなこと心配してんじゃねえよ。あんなもんが爆発したら近所の家も全部壊れるかもしれないだろ!」
「いや、まさか。爆弾じゃねえんだから」
「サムライ、今日が何の日か言ってみろ」
「今日…?」
 サムライは焦っていました。今日が何の日か、過去の記憶をたどっても何も浮かんでこないからです。
 直ママの誕生日ではない、結婚記念日でもない……
 サムライには解りませんでした。
「今日は父の日だ」
 呆れたように直ママは言いました。
「子供達がプレゼントを用意した」
 サムライは少なからず驚きました。
「ああ、承知した」
「まずはロンの似顔絵だ。似ているだろう」
 サムライがのぞき込んだ紙には、長髪の男が木刀を持ってたっていました。
 お世辞にも似ているとは言えませんでしたが、サムライだということは解りました。
「ロン、その、似ているな」
「…ああ、まあな」
 直ママは、そんな二人を見て納得したようにうなずきました。
「次はレイジだ」
「ほい、これ。こっそり見てくれよな」
 そう言われて、サムライはそれに素直に従いました。
「ぶっ」
「サムライ、どうした?何があった?」
 急にサムライの鼻から、多量の血液が流れ出しました。つまりは鼻血です。
 事情がわかっているレイジは大笑いしています。
「いや、なんでもない。急に、のぼせただけだ。今日は暑かったからな」
 そう言って、サムライはレイジからのプレゼントを大事そうに懐にしまいました。
「大丈夫ならいい。じゃあ、最後はヨンイル」
 直ママが振り返ると、ヨンイルはどこにもいません。
「ヨンイルはどこに行った?」
「先に河原に行ってるって、さっき」
 ようやく笑いが納まったレイジも付け加えました。
「おどろくほど上出来なもん見せてやるって言ってたぜ」
「じゃあ、河原に移動しよう」


 そうして4人は河原に向かって歩いていきました。


「ヨンイル、準備は出来ているか?」
「遅いやないの。こっちは当然ばっちりやで!そこで見とき!!」
「本当に大丈夫かよ」
「まあ、見てろって。ロンは心配性だな」
「お前等がおかしいんだろ!!」


「行くでぇー」

 そのかけ声と共に、花火がばしゅ、ばしゅ、と二発打ち上げられました。

  どおん

  どおん

 夜空には、『直LOVE』という文字がキレイに輝きました。
「…………」
「………直、これは」
「はははははっ!!やっぱこうきたか、」

「…あのバカ」

 上機嫌で戻ってきたヨンイルは、直ママに1週間の漫画禁止令が敷かれました。
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